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act01:トーカ&トーナ


・・・・・母さん、俺はもうダメかもしれません。


冒険者になることを決意したのが半年前。
剣士ギルドに正式に加入したのがちょうど一ヶ月前。

剣士としても冒険者としても半人前なのは分かってる。
でも毎日の剣修練は欠かしたことないし、
プロンテラ近辺のモンスターは一通り倒した。

そんな中聞いたのがフェイヨンのことだった。
自分の力を試すには丁度よさそうだったし、
上手くいけば猫耳のヘアバンドがでるかもしれない。
古くなった武器を買い換えるのもいいし、新しい防具も欲しいし、
意気揚々とやってきた俺は・・・・・

なぜこんなにも走っているのだろう。

さっきから後ろではキィン、キィンと澄んだ音が一定のリズムで聞こえる。
その度に周りの竹が切り倒されてるのを気にしてる余裕はなかった。

しかし何故俺は竹林に逃げ込んだのか。
走りにくいことこの上ないし、鬱蒼と生い茂る草木で全身切り傷だらけだ。

もう、もう走れない。

そう思うのはこれで何回目か。
人間、限界だと思ったところは体に負担がかかり過ぎないように脳がリミットを
かけている状態であると剣士ギルドで習ったような気が・・・・・
そのリミットを意図的にはずすのがバーサークやらなんやら・・・・・

あーこれが走馬灯というやつか。
心なしか竹林が花畑に見えてきたよ。
死んだばあちゃんの声も聞こえる気がするなぁ。

糸が切れた操り人形のようにその場にぺたりと座り込む。
もう、本当に一歩も動けない。
体をひねって仰向けに倒れこむ。

「彷徨う者」と一般に呼ばれるそれは鋭い眼光で俺を睨み付る。

いつだったか図書館かどこかで読んだ「世界モンスター図鑑」
”悪魔にして優れた剣術を持つ。”とか書いてあった気がする。
俺も強くなったらいつか手合わせしてみたいものだと修行に励んだなぁ。
その”いつか”が今か。早いなぁおい。

彷徨う者は姿勢を低くすると抜刀する構えをとった。
・・・・・ここまでか。覚悟を決めて目を閉じる。

カァン!

さっきまで嫌になるほど聞いた澄んだ音ではなかった。
少し低い。聖堂の鐘かなにかが鳴る音に近いか。

「だいじょぶ?」

と女の声に応えるように恐る恐る目を開けると、
見たことのある紫の装束が見える。
真ん中でわけた銀髪の上には白に赤で装飾した帽子。
聖職者が好んで被る・・・ビレタだったか。

そうだプリーストだ。

もしかしたら助かったのか?彷徨う者は?

「あんたのほうこそ大丈夫かよ。」

一心不乱にプリーストに切りかかる彷徨う者。
しかし刀身はプリーストには届いていない。
カァン、カァンと音が鳴り続けるだけだ。
俺の不思議そうな顔を見て察したのか、

「あぁこれね。キリエエレイソンって言って、んー簡単に言っちゃえば
神様のご加護を受けてバリアを張ってるの。」

この非常事態に明るい声で魔法の説明を受けてもどう反応したものか。

「頭の上で天使が護ってくれてるのが見えるでしょ?」

と頭上を指差す。
俺もつられてプリーストの頭上を見る。

「見えないのは俺が聖職者じゃないからか?」
「あ・・・切れた。」

はい?え、それはバリアが切れたってことですか?

「うわわわ!まっずーい!」

本当にまずいのかどうだか分からないような声でそういうと
プリーストはバックラーを身構えた。
あぁ死ぬのが少し長引いただけかとまた覚悟を決める。

ゴッ

今度は鈍い音。何が起こったんだか理解できないが、
現状としては彷徨う者は頭を抑えてふらふらし、
俺のそばに石礫が落ちてるくらいか。

「間に合ったかな。まったくトーカはぁ・・・。」

また見覚えのある紫の装束。
手にはめる独特の短剣。
機動性を徹底的に追及したぴったりとした衣服は
女性の体のラインがよく分かり妖艶だ。
シャギーの入った銀髪にハートのヘアピンがよく目立つ。

アサシンか。

「トーナ!ごめーん。つい、ね。あはははは。」
「笑ってる場合じゃないよー。こいつ結構強いんだから!」
「はいはーい。ブレッシング!速度増加!」

アサシンは持っていた短剣、カタールという名前だったか、
強く握り直すとトリッキーなステップで彷徨う者に向かっていく。

数々の支援魔法を受けたアサシンはギリギリの所で全ての攻撃をかわし、
的確に相手の急所を突いていく。
決して正面から戦わず相手の裏をかいていく。
リズムを崩して虚をつくアサシン特有の戦い方。

「ふー、ギリギリー。」

かわしたと思ったときにはすでに相手の後ろに回っている。
音もなく首筋を斬るとがっくりと膝を突いて彷徨う者は消えた。

「おつかれさまー。」
「ふふーん。」

・・・・・今度こそ助かった。
母さん、息子はまた無事明日を迎えることができそうです。

「だいじょぶだった?助けるの遅れてごめんね。」
「いや・・・あ、ありがとう。」

あまりにほっとしたのか気の抜けた声で返事を返す。
これが経験を積んだ冒険者か。
トーカと呼ばれたプリーストは笑顔で俺にヒールをかけてくれる。
トーナと呼ばれたアサシンはカタールについた血を拭うと煙草に火をつける。

「この辺はたまにさっきのがでるから蝿の羽もってなきゃだめだぞ剣士君。」

アサシンに痛いところをつかれた。
何分貧乏冒険者なので蝿の羽一個買うのも躊躇してしまうのだ。
しかしそれは危険予測が甘かったのかもしれない。
やっぱまだまだ半人前だなぁ。
いつでも死は口を開けて待っている。

「さ、また猫耳のヘアバンドでも狙いにいきますかね。」
「はーい。あ、剣士君。どこかに送ってあげようか?」

渡りに船だ。蝶の羽もないし、あったとしても
フェイヨンで訪問届けをだしてしまっている。

「プロンテラに行きたいんだけど・・・」

もう一度プロンテラからやり直そう。
剣士としてよりも冒険者としての心構えがまだ甘かった。

「ん、わかったー。」

そういうとプリーストは袋からブルージェムストーンをとりだし、

「ワープポータル!」

地面から光の柱が立ち上る。空間転移魔法。術者の記憶している地域に人を転送する魔法。

「ありがとう。助かったよ。」
「いえいえ。お気になさらずに。冒険者に幸あれ!エンジェラス!」

そういうとプリーストの頭上で鐘が鳴った。

「おまじないですよ。」

にこっと笑うと胸の前で十字を切る。

「また機会があったらね。その頃にはもっと強くなってるかな?」

そう言ってアサシンはひらひらと手を振る。

「それじゃあ、本当に世話になったよ。」

光の柱に入る。あとは転送されるのを待つだけだ。
プロンテラに着いたら馴染みの店のランチを食べよう。
ゆっくり休んで明日からまたがんばろう。
俺もあの二人みたいになりたい。

徐々に体と意識が離れるような感覚に見舞われる。

意識がなくなりかけた瞬間。

「あ。」

最後に聞いた言葉はそれだった。

母さん、俺は今見たこともないところにいます。

青い屋根、屋根、屋根。
行き交う人はローブを着ている人が多い。

魔道の街ゲフェン。

母さん、俺のあのやる気はどこへ向ければいいのでしょう。
右も左も分かりません。

・・・・・まぁ生き延びたわけだし。
助けてもらって文句言ってちゃいけないな。

まずは宿屋の確保と飯か。

母さん、俺は元気でやってるよ。



・・・to be continued.





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